MDR-EX800STの使用用途を徹底解説!プロ機の実力とは

プロの現場で長年愛用されるソニーのモニターイヤホン「MDR-EX800ST」。
MDR-EX800STの使用用途と検索してこの記事にたどり着いたあなたは、このイヤホンが持つ真の実力や、モニター以外のリスニング用途で使えるのかどうか、具体的な情報を求めているのではないでしょうかー―。
一見すると、その評価の高さから万能機に思えるかもしれません。しかし、一般イヤホンとの違いを理解せずに手を出すと、後悔する可能性もあります。
この記事では、MDR-EX800STが持つ本来の音質の特徴や、独特なサウンドバランスの理由を詳しく掘り下げます。また、16mmという大口径ドライバのポテンシャル、長時間の使用を支える装着感についても解説します。
さらに、その性能を最大限に引き出すためにヘッドホンアンプは必要?といった疑問や、リケーブルやイヤーピース交換によるカスタマイズの可能性まで、多角的に考察していきます。
この記事を読むことで、以下の点が明確になります。
- MDR-EX800STのモニター機としての正確な立ち位置
- リスニングで楽しむための具体的な調整方法
- 一般のイヤホンとは異なる構造上のメリットと注意点
- 本来の性能を引き出すために必要な周辺環境
MDR-EX800STの基本的な特徴と使用用途

- プロ仕様機と一般イヤホンとの違いは?
- 16mm大口径ドライバがもたらす音響
- 原音忠実を追求した音質の特徴とは
- フラットで自然なサウンドバランス
- 長時間使用を想定したステージ用の装着感
プロ仕様機と一般イヤホンとの違いは?

MDR-EX800STは、一般的な音楽鑑賞を目的としたイヤホンとは、その成り立ちから設計思想まで大きく異なります。
このイヤホンは、ソニーとソニー・ミュージックスタジオが共同で開発した、プロフェッショナル向けの業務用音響機器です。
ステージに立つアーティストや、スタジオで音源を制作するエンジニアが、音を正確に「監視(モニター)」するために作られました。
開発目的と音作りの方向性
リスニング用のイヤホンが音楽を「楽しく」「心地よく」聴かせるためのチューニング、例えば低音や高音を強調する音作りがされているのに対し、MDR-EX800STは音の色付けを極力排除し、録音された音をありのままに再現することを目指しています。
このため、派手さはありませんが、解像度が非常に高く、楽器一つひとつの音やボーカルの細かな息遣いまで聴き分けることが可能です。
製品保証と耐久性
業務用機材であるため、一般的な家電製品とは異なり、無償の修理保証期間が設けられていません。購入後の修理はすべて有償となる点は、あらかじめ理解しておく必要があります。
これは、過酷なプロの現場での使用を前提としており、高い耐久性と、万が一の際にパーツ交換がしやすい構造になっていることの裏返しでもあります。
例えば、ケーブルは着脱式になっており、断線などのトラブル時に素早く交換できるよう配慮されています。
項目 | SONY MDR-EX800ST | 一般的なリスニング用イヤホン |
主な目的 | 原音の正確なモニタリング | 音楽鑑賞 |
音作り | フラットで色付けが少ない | 低音や高音を強調するなど様々 |
開発背景 | 音楽制作者・演奏者向け | 一般消費者向け |
保証 | 業務用のため原則有償修理 | メーカー保証期間あり |
耐久性 | 高い耐久性とメンテナンス性 | モデルにより様々 |
このように、MDR-EX800STは音楽を「分析」するための道具であり、一般的なイヤホンとは全く異なる位置づけの製品である、という点が最も大きな違いになります。
16mm大口径ドライバがもたらす音響

MDR-EX800STの音質を語る上で欠かせないのが、イヤホンとしては異例の大きさを誇る16mmのダイナミック型ドライバーユニットです。
一般的なカナル型イヤホンに搭載されるドライバーの口径が8mmから10mm程度であることを考えると、そのサイズがいかに大きいかが分かります。
この大口径ドライバーが、MDR-EX800STの豊かな音響性能の源泉となっています。ドライバーの振動板面積が大きくなることで、主に3つのメリットが生まれます。
第一に、歪みの少ない豊かな低音域の再現が可能になります。
振動板が一度に動かせる空気の量が多いため、余裕を持って深く沈み込むような低音を鳴らすことができます。量感がありながらも、不自然に膨らむことのない、輪郭のハッキリとした低音は、大口径ならではの魅力です。
第二に、広大な音場(サウンドステージ)を実現します。
まるでヘッドホンで聴いているかのような、左右への音の広がりと奥行きを感じることができ、インイヤーモニターでありながら窮屈さを感じさせません。これにより、各楽器の定位を正確に把握することが求められるモニタリング作業に適応します。
そして第三に、音のダイナミックレンジ(強弱の幅)が広がり、繊細な音から力強い音までを破綻なく表現する能力が高まります。
特に、ライブステージのような大音量が求められる環境でも、音が潰れることなく安定して鳴らしきれる高耐入力(最大500mW)も、このドライバーの性能に支えられています。
原音忠実を追求した音質の特徴とは

MDR-EX800STの音質は、プロのエンジニアやミュージシャンが求める「原音忠実性」を徹底的に追求した結果、極めて特徴的なバランスに仕上がっています。各音域ごとにその性質を見ていきましょう。
低音域
前述の通り、16mmの大口径ドライバーによって、深く量感のある低音を再生します。しかし、一般的なリスニングイヤホンのように過度に強調されているわけではありません。
キックドラムのアタック感やベースラインのうねりを正確に捉えるための、タイトで反応の速い低音が特徴です。
制動が効いているため、他の音域をマスクすることなく、アンサンブルの土台をしっかりと確認できます。
中音域
ボーカルやギター、ピアノといった楽曲の要となる中音域は、MDR-EX800STが最も得意とするところです。
非常にクリアで歪みが少なく、楽器本来の音色やボーカリストの繊細なニュアンスをありのままに描き出します。
楽器同士の分離性能も高いため、音が密集するような複雑な楽曲でも、各パートを明瞭に聴き分けることが可能です。
高音域
高音域は、シンバルやハイハットの金属的な響き、弦楽器の倍音などをクリアに再現し、楽曲に空気感を与えます。
ただし、一部のリスニングイヤホンのように、刺さるような鋭さや過度なきらびやかさは抑えられています。
これは、長時間のモニタリング作業でも聴き疲れしないように配慮されたチューニングであり、全体のバランスを崩さない絶妙な調整が施されている結果です。
フラットで自然なサウンドバランス

MDR-EX800STのサウンドバランスを最も的確に表す言葉は「フラット」です。
特定の音域を意図的に持ち上げたり、逆に凹ませたりすることなく、全帯域にわたって素直な周波数特性を持っています。この特性こそが、モニターイヤホンとしての存在価値を決定づけています。
しかし、この「フラットすぎる」特性が、初めて聴く人に「音が曇っている」「こもって聴こえる」といった印象を与える最大の原因です。
近年のリスニング用イヤホンの多くは、多くの人が迫力や明瞭さを感じやすいとされる「ハーマンターゲットカーブ」などを参考に、低音と高音を強調したV字型のサウンドバランスに調整されています。
また、ボーカルなどが聴きやすいように中高域の一部にピークが設けられていることも少なくありません。私たちは知らず知らずのうちに、そうした「演出された音」に慣れてしまっています。
そのため、味付けのないMDR-EX800STの音を聴くと、相対的に物足りなさや、ベールが一枚かかったような印象を受けてしまうのです。
このイヤホンは、音楽に含まれる情報を分析的に聴き取るための「測定器」に近い存在です。そのため、迫力や楽しさといった要素は意図的に削ぎ落とされています。
このサウンドバランスの思想を理解することが、MDR-EX800STを正しく評価する第一歩となります。
長時間使用を想定したステージ用の装着感

MDR-EX800STは、ステージ上での激しいパフォーマンスや、スタジオでの長時間の作業を想定して、装着感にも特別な工夫が凝らされています。その中心となるのが「フレキシブルイヤーハンガー」の採用です。
これは一般的に「シュア掛け」と呼ばれる装着方法で、ケーブルを耳の上から後ろに這わせるスタイルです。
この方式にはいくつかのメリットがあります。まず、イヤホン本体が耳にしっかりと固定されるため、体を動かしても外れにくく、安定した装着感が得られます。これは、ステージを動き回るミュージシャンにとって不可欠な要素です。
また、ケーブルが衣服などに擦れた際に発生する不快なゴソゴソ音(タッチノイズ)が耳に伝わりにくくなるという利点もあります。これにより、より音楽に集中することが可能です。
イヤーハンガー部分は内部にワイヤーが入っており、ユーザー自身の耳の形に合わせてカーブを調整できるため、フィット感を高めることができます。
一方で、デメリットも存在します。一般的なイヤホンのように素早く装着することが難しく、慣れるまでは少し手間取るかもしれません。特に急いでいる場面では、わずらわしさを感じる可能性もあります。
とはいえ、本体重量が約7g(ケーブル含まず)と非常に軽量に設計されていることもあり、一度正しく装着してしまえば、その存在を忘れるほど快適です。
長時間の使用でも耳への負担が少なく、疲れにくい装着感は、プロの現場で信頼され続けている理由の一つです。
調整で広がるMDR-EX800STの使用用途

- モニター以外のリスニング用途には向く?
- 本領発揮にヘッドホンアンプは必要?
- 遮音性と音質を変えるイヤーピース
- 音質向上を目指すリケーブルの可能性
- 最適なMDR-EX800STの使用用途を見つける
モニター以外のリスニング用途には向く?

ここまで解説してきた通り、MDR-EX800STは音楽を分析的に聴くためのプロ用モニターです。したがって、「箱から出してそのままの状態で、一般的な音楽鑑賞(リスニング)に向いているか?」と問われれば、答えは「多くの人にとっては向いていない」となるでしょう。
その理由は、前述の通り、極めてフラットなサウンドバランスにあります。
リスニングで求められることが多い、心躍るような低音の迫力や、突き抜けるような高音の爽快感といった要素は、意図的に抑えられています。そのため、何の工夫もせずに聴くと、音が地味で面白みに欠けると評価されることが少なくありません。
しかし、このイヤホンが持つポテンシャルは、モニター用途だけに留まるものではありません。むしろ、適切な「調整」を施すことで、他の高級リスニングイヤホンを凌駕するほどの素晴らしい音楽体験を提供する可能性を秘めています。
具体的には、イコライザー(EQ)の活用が鍵となります。
スマートフォンのアプリや音楽再生ソフトのイコライザー機能を使って、物足りなく感じる低音域と高音域を持ち上げ、音がこもる原因となりやすい中低域をわずかに下げる、いわゆる「V字」のカーブを描くように調整します。
このひと手間を加えることで、MDR-EX800STは眠りから覚めたように、その表情を一変させます。
元々の解像度の高さや広大な音場、歪みの少ないクリーンな音質という土台があるため、イコライザーによる調整でも音が破綻しにくいのです。
調整次第で、深みと迫力を両立した低音、そしてクリアで見通しの良い高音を奏でる、最高峰のリスニングイヤホンへと変貌させることが可能です。
本領発揮にヘッドホンアンプは必要?

MDR-EX800STのスペックを見ると、インピーダンスは16Ωと低く、音圧感度は108dB/mWと高めです。これは、少ない電力でも比較的大きな音量を出しやすいことを意味しており、数字の上ではスマートフォンなどでも十分に駆動できるように見えます。
では、性能を最大限に引き出すために、別途ヘッドホンアンプは必要なのでしょうか。
この問いに対する答えは、単純な駆動力という観点だけでは測れません。むしろ、再生環境の「質」がより重要になります。
感度が高いということは、小さな音の信号も的確に拾う能力がある一方で、再生機器側が発する「サー」というような微細なノイズ(ホワイトノイズ)も拾いやすいというデメリットを併せ持ちます。
特に、出力品質の高くないスマートフォンやPCのイヤホンジャックに直接接続した場合、静かな楽曲の無音部分などで、このノイズが気になることがあります。音楽への没入感を妨げる要因になりかねません。
そのため、ヘッドホンアンプの役割は、音量を稼ぐことよりも、ノイズの少ないクリーンな信号を供給することにあります。
高品質なDAC(デジタル-アナログ変換器)を搭載したポータブルアンプなどを使用することで、ノイズフロアが下がり、S/N比(信号と雑音の比率)が向上します。
結果として、MDR-EX800STが持つ本来の解像度の高さを、よりはっきりと感じられるようになります。
また、ノイズ対策として「アッテネーター」と呼ばれるアクセサリー(iFi audioのiEMatchなど)を間に挟む方法も有効です。これは意図的に抵抗を加えて出力を下げることで、結果的にノイズを目立たなくさせるものです。
以上のことから、アンプが「必須」とまでは言えませんが、MDR-EX800STの真価を発揮させ、より高品位な音で楽しみたいのであれば、質の高い再生環境を整えることが望ましいと考えられます。
遮音性と音質を変えるイヤーピース

イヤホン、特に耳穴に挿入するカナル型において、イヤーピースは装着感と音質を決定づける極めて大切なパーツです。
MDR-EX800STにはS、M、Lの3サイズのシリコン製イヤーピースが付属していますが、すべての人に完璧にフィットするとは限りません。
もしイヤーピースと耳の間に隙間ができてしまうと、いくつかの問題が発生します。
最も影響が大きいのが低音域です。隙間から音が抜けてしまうため、本来の豊かな低音が感じられなくなり、スカスカで軽い音になってしまいます。
また、外部の音が侵入しやすくなるため、遮音性が大幅に低下します。これは、周囲の音を遮断してモニターに集中したいステージ上では、致命的な欠点となり得ます。
実際にMDR-EX800STは、本体の設計上、完全な密閉型ではなく、音漏れや外部音の侵入が比較的多いという指摘もあります。この点を改善し、自分好みの音質や装着感を得るために、サードパーティ製のイヤーピースに交換することは非常に有効な手段です。
イヤーピースには、大きく分けてシリコンタイプとフォームタイプ(低反発ウレタン)の2種類があります。
- シリコンタイプ: クリアでダイレクトな音質傾向になります。傘の形状や軸の硬さなど、様々なバリエーションがあり、フィット感を細かく調整できます。
- フォームタイプ: 耳の中でゆっくりと膨らんで隙間なくフィットするため、非常に高い遮音性を得られます。音質的には、高音域の角が取れてマイルドになり、低音の量感が増す傾向があります。
自分の耳の大きさや形、そして求める音の方向性に合わせてイヤーピースを探す旅は、MDR-EX800STを使いこなす上での楽しみの一つです。
適切なイヤーピースを見つけることで、このイヤホンの評価は大きく変わる可能性があります。
音質向上を目指すリケーブルの可能性

MDR-EX800STは、プロの現場でのメンテナンス性を考慮し、ケーブルが着脱可能な設計になっています。この仕様は、音質向上を目指す「リケーブル」というカスタマイズの扉を開きます。
リケーブルとは、付属のケーブルを、より高品質な素材や構造を持つサードパーティ製のケーブルに交換することです。
リケーブルを行う主な目的は、以下の3つです。
- 音質の変化: ケーブルの素材(銅、銀、金メッキなど)や構造によって、音の伝達効率や電気的な特性が変わり、音質が変化します。例えば、銀線のケーブルに交換すると、高音域の明瞭度や見通しが向上する傾向があると言われています。付属ケーブルの音が好みでない場合に、自分好みの方向へチューニングする手段となります。
- 取り回しと長さの変更: 付属ケーブルは1.6mと長めに設計されており、普段使いには長すぎると感じる人もいます。より短いケーブルに交換することで、取り回しが良くなり、日常的な利便性が向上します。
- バランス接続への対応: 近年、ハイエンドな音楽プレイヤーやヘッドホンアンプで採用されている「バランス接続」に対応したケーブルに交換することも可能です。バランス接続は、左右の信号を完全に分離して伝送する方式で、クロストーク(左右の音の混線)を低減し、よりクリアで立体的なサウンドステージを得られるというメリットがあります。これはノイズ対策としても有効です。
ただし、MDR-EX800STのリケーブルには一つ大きな注意点があります。ケーブルを接続するコネクタ部分が、現在主流のMMCXや2Pinといった汎用規格ではなく、ソニー独自のネジ式特殊コネクタを採用していることです。
そのため、市販の汎用ケーブルを直接接続することはできません。
リケーブルを行うには、「MDR-EX800ST専用」として販売されているケーブルを選ぶか、汎用ケーブルを使用するための「変換アダプタ」を別途用意する必要があります。
このハードルの高さが、手軽なカスタマイズを難しくしている要因の一つですが、乗り越えることで、さらなる音質の高みを目指せます。
最適なMDR-EX800STの使用用途を見つける

この記事を通じて、SONY MDR-EX800STが持つ多面的な性格と、その真価を引き出すための方法を解説してきました。
最適なMDR-EX800STの使用用途は、ユーザーがこのイヤホンに何を求め、どこまで手を加えるかによって大きく変わります。
MDR-EX800STのレビュー記事を当ブログ【SONY MDR-EX800STレビュー 後継は?音漏れやリケーブルも解説】で紹介していますので、時間に余裕がある方はぜひそちらものぞいてみてください。
以下に、本記事の要点をまとめます。
- MDR-EX800STはプロ向けの業務用モニターイヤホン
- 一般的なリスニング用イヤホンとは開発思想が根本的に異なる
- 音の色付けを排したフラットなサウンドバランスが最大の特徴
- このフラットさが「音が曇っている」と感じる原因になる
- 16mmの大口径ドライバーが豊かな低音と広い音場を実現
- 高い解像度と楽器の分離性能を持つ
- 長時間の使用でも疲れにくい軽量設計と装着感
- シュア掛け式の装着には慣れが必要な場合がある
- 箱出しのままではリスニング用途には向かない可能性がある
- イコライザー調整で最高峰のリスニング機に変貌するポテンシャルを持つ
- 感度が高く再生機器のノイズを拾いやすい点に注意が必要
- ヘッドホンアンプは駆動力よりノイズ対策の観点で有効
- イヤーピースの交換はフィット感と音質改善に直結する
- リケーブルは可能だが独自規格のコネクタのためハードルが高い
- 調整を前提とすればモニターからリスニングまで幅広く対応できる玄人向けのイヤホン





